こんにちは、CSSファクトリーです。

キャンピングカーの物理学」シリーズでは、キャンピングカーの特性を車両の仕様や形状などの特徴から解説しています。とりわけキャブコンは、3トンを超える車重に対して重心が高く、トレッドが狭く、ホイールベースが短いことに加えて風の影響を受けやすい車体形状も相まって、走行安定性には本質的に不利な条件が揃っています。そんな車両を支える唯一の接点がタイヤであることは、「【キャンピングカーの物理学】オーナーが知るべきタイヤ規格の話」で解説した通りです。

キャンピングカーの物理的な車両の特性から、タイヤの管理は非常に重要です。

今回ご紹介する事例は、あるキャンピングカーオーナー様が、タイヤ交換の判断を先延ばしにしたことで、高速道路上で極めて危険な事態に直面した、というものです。そこには、日本の車検制度が抱える構造的な誤解という落とし穴も潜んでいました。

第1章:「車検合格」という安心感

キャブコンキャンピングカーがFFヒーターの修理で入庫した際に車両を点検したところ、タイヤが劣化し危険な状態であることを確認しました。溝が新品時の3分の1程度まで摩耗していたこと、サイドウォールのみならず、トレッド面の溝の奥にも深いひび割れ(クラック)が発生していたこと、製造から10年が経過していたことです。この状態では、高速走行時にバーストしてしまう可能性も考えられます。

ゴム製品であるタイヤは、残溝がある場合でも紫外線や経年によって内部から劣化します。製造から10年を経過すると、ゴムの劣化が進み構造的な信頼性が失われつつあると言って良いでしょう。

オーナー様には交換を強く推奨したのですが、ひび割れは気になるが先日の車検はそのまま通ったこと、後輪がダブルタイヤなので6本の交換となると20万円程度の出費になることから交換は来シーズンする、とのことでした。

この判断の背景には、二つの心理的バイアスがあったのではないかと考えています。一つは「車検に通った=国が安全を保証した」という安心感。もう一つは、高額出費を先延ばしにしたいという自然な心理です。しかし、日本の車検におけるタイヤ検査の基準は、残溝が1.6mm(スリップサイン)以上あるかどうかが主眼で、経年劣化や内部の構造的ダメージは検査の対象に含まれません。すなわち「法律上、走行が認められる」ことと、「高速道路を安全に走行できる」ということは、まったく別の話なのです。

第2章:高速道路上で起きた「トレッドセパレーション」

それから2ヶ月程経った頃でしょうか、オーナー様から修理の依頼が来ました。高速道路でタイヤがバーストしてしまい、レッカー車でそちらに持って行くので修理して欲しいとのことです。

到着した車両を確認すると、左後輪の外側タイヤがトレッドセパレーションを起しており、高速回転しながら剥がれ落ちたトレッド面が遠心力によって巨大なムチのように暴れてキャンパーシェルのホイールハウス内側を激しく打ち続けていたのです。FRP製のホイールハウスは砕け散り、外装サイドスカートは割れ、配線の一部も引きちぎられていました。ダブルタイヤの内側が無事だったので安全に停車できたとのことでしたが、シングルタイヤであれば最悪の場合には横転して大事故に至っていた可能性も否定できない状況でした。

なお、当該車両のタイヤは純正同等の185/75R15 106/104LT、空気圧は、全輪が500kPa±20kPaでした。カムロードの指定空気圧は600kPaなので、約20%程度低い空気圧だった、ということです。600kPaというのは、乗用車の常識では考えられない高圧ですが、2トントラックでは一般的な値です。タイヤの劣化に加えて空気圧が不足していたことも、タイヤセパレーションを起した原因のひとつだったのではないか、と考えられます。

第3章:突きつけられた修理費用の現実

車両の損傷は大きく、FRP製シェル部のホイールハウスは再構築が必要な状態でした。

今回の修理項目と費用は以下の通りです。

・FRP製タイヤハウス内部の再構築・積層補修

・断線したサイドマーカー配線の引き直し

・外装サイドスカートの割れ修理および塗装

・タイヤ6本の交換

総額:80万円超

この事例は、タイヤ交換を先延ばししたばかりに高額な修理費用が必要になってしまったことに加え、高速道路上で命に係わる事故に遭遇した可能性も否定できない状況に陥ってしまいました。

第4章:予防保全の勧め

ご紹介した事例は、「車検の盲点」と「タイヤ寿命に対する認識のズレ」が引き起こしたものでした。特に後輪ダブルタイヤの車両では「1本に問題が起きてももう1本があるから大丈夫」という安心感も生じがちです。しかし劣化タイヤが引き起こすバーストやセパレーションは、タイヤだけでなく周辺の車体構造を物理的に破壊する可能性があることに加え、横転事故に繋がる可能性も高まります。

チェックリスト:旅に出る前に確認すべき3つのこと。愛車のタイヤについて、以下の点を今一度確認してください。

  1. 製造年月日はいつか? -タイヤ側面に刻印された4桁の数字(例:2620=2026年第20週製造)を確認。製造から5年超で要点検、10年は交換推奨とされています。(一般社団法人日本自動車タイヤ協会 JATMA 安全に乗るために より)
  2. ひび割れは発生していないか? —サイドウォールだけでなく、トレッド溝の奥のひび割れも見逃さないこと。特に後輪ダブルタイヤの内側は目視し難いので要注意です。
  3. キャンピングカーの重量に見合った空気圧管理ができているか? —ベースとなる商用車の指定空気圧は、乗用車とは大きく異なります。

少しでも不安な状態を発見したら、我々のようなプロの点検を受けることを強く推奨します。タイヤから発せられるサインを見逃さないことが、安全・安心なキャンピングカーライフの根幹です。