こんにちは、CSSファクトリーです。
日本の商用バン、そしてバンコンキャンピングカーのベース車両として圧倒的なシェアを誇る「トヨタ・ハイエース」。2004年に登場した現行200系は、幾度もの改良を経て2026年1月には9型が登場し、極めて高い完成度を誇っています。しかしながら、2025年11月のジャパンモビリティショーで「ハイエース・コンセプト」が参考出品されたように、次世代モデルの登場も近付いているようです。
そこで、2026年5月末現在WEB上などで語られている情報と、先のジャパンモビリティショーでトヨタの説明員の方に直接質問して聞き出した情報から、次期ハイエースについて予想してみます。
■ 次期ハイエースはハイブリッド?
まず、ジャパンモビリティショーに参考出品された「ハイエース・コンセプト」の説明員から聞いた情報から。
・ 横置きFFベースのハイブリッドとPHEVを想定している
・ 日本仕様は4ナンバー枠の寸法を遵守した専用仕様
・ 荷室長の確保が課題になるので、参考出品車では助手席無しで長尺物積載対応を提案している
・ FF化で懸念される非舗装路の登り坂などのトラクション不足はAWD仕様を主流にすることで対応
・ 価格はハイブリッド車で現行ディーゼル車と同等水準を目指している
といった、具体的な情報を得ることができました。
ハイエースが「FRのキャブオーバーからFFのハイブリッドに転換する」という情報は、現行機種の改善という域を超えた、ハイエースという車名のみを継承した新たな商用バンが誕生する大改革になります。キャンピングカーのメンテナンスや架装をエンジニアリングの視点から捉える私たちCSSファクトリーにとって、次期ハイエースの誕生は新たなチャレンジの始まりになります。
今回のキャンピングカーラウンジでは、次期ハイエースがなぜFFハイブリッドというレイアウトを選択したのか、そしてキャンピングカービルダーにとってどのようなパラダイムシフトをもたらすのかを考察してみます。
■ なぜ海外版300系の縮小ではないのか?:環境規制と空間効率の両立がFFハイブリッド選択の主因
海外市場向けには、2019年からセミボンネット型の「300系ハイエース」が販売されており、日本でも高級送迎車両「グランエース」として販売されていました。300系ハイエースは、1997年に発売されたかつての「レジアスバン」と同様に、フロントにエンジンを縦置きし、後輪を駆動するFRレイアウトを採用しています。
では、なぜ日本仕様の次期型は300系を4ナンバーサイズに縮小した「縦置きFR」ではなく、「横置きFFベースのハイブリッド」という全く異なるプラットフォームを採用するのでしょうか。技術的な観点から見ると、そこには「電動化の波」と「厳格化する環境・騒音規制への適合」という理由が推測されます。
現代の自動車開発においては、CAFE(企業別平均燃費基準)や次世代の排ガス規制、さらには「フェーズ3」へと段階的に厳しくなる車外騒音規制(R51-03)をクリアするためには、商用車も本格的なハイブリッド化(電動化)が有利になってきます。しかし、商用FRプラットフォームベースでは、どうしても床が高くなってしまうこともあり、4ナンバーサイズを維持したまま現行のキャブオーバー型のパッケージに慣れたユーザーに納得してもらえる荷室を確保することは困難です。
そこでトヨタは、乗用ミニバン「ノア/ヴォクシー」で既に圧倒的な実績と量産効果を持つ「TNGA(GA-Cプラットフォーム系)」のFFハイブリッド・プラットフォームをベースに、商用の高負荷に高耐久を想定した仕様にする方針にしたと考えられます。完全新規で専用プラットフォームを開発するより、モジュール化された最新のFFハイブリッド・システムを転用する方が、開発リソースと環境性能のバランス、開発コストにおいて有利だから、という理由ではないかと推測します。
FFのプラットフォームを採用すると、モビリティショーで参考出品されていたハイエースコンセプトがそうだったように、前席足元からテールゲートまで完全にフラットな床が実現できます。私たちキャンピングカービルダーにとっては、フロントシートから後部居住部へのウォークスルーが実現できることが最大の恩恵です。現行200系のキャブオーバーFRでは、フロントシート下の中央にエンジンが鎮座しているため、相応の盛り上がりがあることから、フロントから後部居住部への移動はかなりアクロバティックな体勢を強いられます。よって、車内で運転席から後部の居住スペースへ移動することは事実上不可能であり、後部居住部への移動には一度車外に降りる必要がありました。
しかし、FFレイアウトになれば、フロントシート間の床はフラットになり「ウォークスルー」が実現できます。これは、キャンピングカーの室内レイアウトをゼロベースで見直す必要があるくらい、大きな変化となります。キャブオーバー車の場合、前席空間をキャンパー居住部として活用することはできませんが、前席を回転させてダイネットの対座シートとして活用するレイアウトなら、FFプラットフォームベースでもキャンパー居住部として活用できる空間は200系ハイエースとあまり変わらない可能性もありそうです。
■ 欧州の覇者「フィアット・デュカト」との比較
「FFベースの商用バン」と聞いて、キャンピングカーに精通した方ならすぐに思い浮かべるのが、欧州市場ではキャンピングカーのベース車として圧倒的に支持されている「フィアット・デュカト」でしょう。デュカトはエンジンをフロントに横置きするFF車であり、4WD仕様が無いことからプロペラシャフトを想定した逃げの無い低くフラットな床面を実現しています。ステランティスジャパンがデュカトの正規輸入を開始して以降、日本でもデュカトベースのキャンピングカーが増えてきました。
しかし、重心の高いFFのキャンピングカーは低μ路の登り坂ではトラクション不足という「弱点」が露呈します。
キャンピングカーは、車両後部に架装重量物(家具、水タンク、サブバッテリーなど)が集中するため、FF車の場合、フロントタイヤの接地圧が相対的に下がります。特に、登り坂では重心が高いと後軸への荷重移動が大きくなることから、雨に濡れた非舗装路では「この程度の登り坂なのに」というくらいの場所で前輪が空転してしまいます。次期ハイエースは、その対策としてAWD仕様が設定されるとのことです。もしかしたら、フル積載時に対応した駆動力を得るために、前後ツインモーターのAWD仕様が全車標準になることもあるかもしれません。ツインモーターのAWDなら、重心が高く前軸荷重が不足するFF車が抱える物理的な弱点を完全に解決可能ですが、リアモーターとデフのスペースをどのように処理するのかは気になるところです。
■「4ナンバー」という制約とパッケージング
電動化やウォークスルー、AWD化という数々の恩恵をもたらす次期ハイエースですが、開発陣にとって最大の障壁となっているのが「日本仕様は4ナンバー枠(全長4,700mm未満、全幅1,700mm未満、全高2,000mm未満)の寸法を堅持する」という絶対条件です。横置きFFベースのハイブリッド車で、キャブオーバーの現行200系の荷室長にどこまで近づけられるのか。
これを実現するためには、軽自動車のスーパーハイトワゴンが用いるパッケージングのノウハウが投入されるのではないかと推測します。
エンジンルームの前後長(クラッシャブルゾーン)を衝突安全基準を満たした上で実現可能なギリギリまで短縮し、バルクヘッドを極限まで前進させ、Aピラーを立てる。さらに、前席乗員は可能な限り高く座らせて、前後寸法を最小限に留める、といった工夫で荷室長さを最大化していくのではないでしょうか。
トヨタグループでは、この手のノウハウを最も多く持っているダイハツの知見を活用した緻密なパッケージング技術が、次期ハイエースには導入されると考えられます。余談ですが、4ナンバーサイズの次期ハイエースを50cm程度短縮し、次期タウンエースとして仕立てることにも十分考えられる展開です。しかも、タウンエースは伝統的にダイハツが開発/生産してトヨタに供給している車種でもあります。
■ まとめ:データドリブンで迎える「新時代のキャンパーベース」
かつて、レジアスバンで「キャブオーバーではないFRの4ナンバー商用車」を提案したものの、荷室長の不足が一因となり市場から受け入れられなかったトヨタ。あれから30年近く経過した現在でも、4ナンバーの非キャブオーバー車は、タウンエース(OEM含む)とバネットのコンパクトクラス2車に限られます。
したがって、次期ハイエースが「4ナンバーフルサイズのFFハイブリッドバン」になる、という挑戦はトヨタのパッケージング技術の粋を集めたものになると推測できます。
そして、私たちCSSファクトリーにとっては、次期ハイエースの誕生がキャンピングカー業界の劇的な進化のトリガーになると期待しています。フロントからのウォークスルーが可能になり、AWDによる安定したトラクションが得られ、ハイブリッドシステム(高電圧バッテリー)による大容量の電源供給(AC100V・1500Wなど)の恩恵も受けられます。さらに、PHEVであれば、停車中もエンジンを始動することなく電源供給に加えて車両標準の空調システムで冷暖房を使用することが可能です。居住部の空間を侵食するクーラーや、重く高価なサブバッテリーの搭載が不要なPHEVのキャンピングカーは、確実にキャンピングカー業界のゲームチェンジャーになることでしょう。
これまでの経験則だけに頼るのではなく、新しい車両のアーキテクチャや構造データを正確に読み解き、それに合わせた最適な架装やメンテナンスを提供していくこと。それこそが、次世代のキャンピングカーライフを安全で豊かなものにしていきます。
来年登場と噂される次期ハイエース。その全貌が明らかになる日を、皆様と共に楽しみに待ちたいと思います。