こんにちは、CSSファクトリーです。

以前、当欄では「フィアット・デュカトの系譜:欧州キャンパーの覇者であるFF低床ベース車の歴史」と題して、欧州モーターホーム市場でトップシェアを誇るFF低床バンの歴史をご紹介しました。今回取り上げるのは、同じ欧州発でありながら性格の異なる二つのベース車、「メルセデス・ベンツ・スプリンター」と「メルセデス・ベンツ・Vクラス」です。スプリンターは全幅・全長ともに大型で、FR/4WDのシャシーをベースにヒムザーやコンコルドといった名だたるビルダーが大型モーターホームを架装する「素材」としての存在感が際立つ商用バンです。

一方のVクラスは、プレミアムミニバンとしての快適性を武器に、メルセデス・ベンツ自身が手掛ける純正キャンパー「マルコポーロ」のベースとなっている点が最大の特徴です。デュカトが「サードパーティのエコシステムで覇権を握ったFF車」だとすれば、スプリンターとVクラスは「サードパーティに委ねる部分」と「メーカーが自ら囲い込む部分」を巧みに使い分けてきた血統だといえます。なお日本市場では、デュカトが2022年に正規導入されたのとは対照的に、スプリンターは2006年の撤退以降、現時点(2026年9月)では輸入の再開のアナウンスはありません。Vクラス・マルコポーロは、2018年にメルセデス・ベンツ日本による限定的な正規販売が行われましたが、その後の正規輸入はありません。よって、現在はスプリンター及びVクラス・マルコポーロの入手は並行輸入業者を通じてのみとなります。

このような経緯にも触れながら、本稿では両車の前身モデルから現行仕様までの系譜、メーカー純正キャンパー「マルコポーロ」の歴史、そして電動化時代を見据えた「EQVベースのBEVキャンパー」の可能性まで、順を追って解説していきます。

第1章:スプリンター前史(1977年〜1995年)

〜ブレーマー・トランスポーターとFR/4WDシャシーの原点〜

スプリンターの前身は、1977年に登場した「T1」(社内呼称「TN=Transporter Neu」)です。当初はブレーメン工場で生産されたことから「ブレーマー・トランスポーター」、後にデュッセルドルフ工場へ生産移管されてからは「デュッセルドルファー・トランスポーター」とも呼ばれました。フィアット・デュカトがジアコーサ式の横置きFFレイアウトによって荷室の低床化を実現したのに対し、T1はフロントエンジン・リアドライブ(FR)を基本とし、ホイールベース3種、車両総重量2.55〜4.6トンをカバーする幅広いラインアップを展開しました。日本車でもそうですが、後輪駆動は積載時にも駆動力を確保できるので、悪路や登坂路のトラクションに優れています。T1当時もキャンピングカーのベース車両として人気があり、フォルクスワーゲン・トランスポーターより一回り大きい車格を生かした架装が行われていました。

T1は、約97万台が生産され、1995年に18年の歴史に幕を下ろし、後継の「スプリンター」へとバトンが渡されます。

第2章:初代スプリンター(T1N、W901〜905型、1995年〜2006年)

〜メルセデス・ベンツ製商用車初の「車名」と日本での商標問題〜

1995年に欧州でデビューした初代スプリンターは、メルセデス・ベンツの商用車として初めて「アルファベット+数字の型式名」ではなく固有の車名を与えられたモデルとなり、International Van of the Yearを受賞するなど高く評価されました。エンジン搭載位置を先代よりも290mm前方に移動してキャビンスペースを拡大したのが特徴で、OM601/OM602型ディーゼルやM111型ガソリンエンジンを搭載し、4輪ディスクブレーキとABSを標準装備し、2002年の改良では横滑り防止装置(ESP)も標準化しました。北米へは2001年から「フレイトライナー・スプリンター」として、2003年からは「ダッジ・スプリンター」としても展開されています。駆動方式は先代T1から続くFRを踏襲し、トランスミッションは欧州では5速MTが標準でしたが、北米仕様(2002〜2006年)には5速AT(5G-Tronicベース)も設定されました。

また、オーストリアの専門メーカー、オーバーアイグナー(Oberaigner)が架装する「4×4」コンバージョンも用意されました。副変速機付きトランスファーケースを備えたパートタイム式で、トランスミッションは5速MTのみ。日本にも少数が並行輸入されたようです。

コラム:なぜ日本では「トランスポーターT1N」と名乗ったのか

初代スプリンターは2004年、ヤナセを通じて日本にも正規輸入が開始されました。しかし、「スプリンター」の商標がトヨタ自動車に登録されていたことから、日本仕様は「トランスポーターT1N」の名で販売されました。その後、ダイムラークライスラーと三菱ふそうトラック・バスとの提携強化などの事情により、2006年に日本での正規輸入販売が終了しています。それ以降、スプリンターの正規輸入はありません(2026年9月現在)。

第3章:2代目スプリンター(W906型、2006年〜2018年)

〜グローバル生産網の確立〜

2006年に登場した2代目スプリンターは、「New Concept Van 3(NCV3)」の開発コードで知られています。高く評価され、米Professional Van and Light Truck Magazine誌のVan of the Yearを2007年・2008年と連続受賞しました。生産拠点はデュッセルドルフ、ルートヴィヒスフェルデ(独)に加え、北米向けはサウスカロライナ州ラドソンでのセミノックダウン生産、2011年からはアルゼンチンでも現地生産のOM651型エンジンを搭載して生産を開始、2014年にはアルジェリアでも生産が始まるなど、生産拠点のグローバル展開が加速しました。エンジンはOM646型直4ディーゼルからスタートし、2010年にはOM642型V6ブルーテック(188馬力、非ブルーテック仕様の154馬力から向上)を追加しました。トランスミッションは6速MTを基本とし、5速AT(NAG2/5G-Tronic)も選択出来ました。2013年の改良ではエンジンによって7速AT(7G-TRONIC PLUS)も選べるようになっています。

4WDは、引き続きオーバーアイグナー製の「4×4」が設定されました。副変速機付きトランスファーケース(ZG3)にはオープン式のセンターデフが組み込まれており、前後トルク配分は35:65が基本となっています。車輪がスリップした際には車輪を個別に制動する電子制御トラクションシステム「4ETS」で仮想的なロック状態を作り出すという考え方がこの世代で確立され、機械式のデフロックは装着されていません。

2013年の大改良ではクロスウィンドアシスト、衝突被害軽減ブレーキ、ブラインドスポットアシスト、アダプティブハイビーム、車線逸脱防止機能などの安全装備を新たに採用し、Euro VI排出ガス規制にも対応しました。また、フォルクスワーゲンは2016年頃まで本モデルのOEM供給を受け「クラフター」として販売しています。これは、フィアットとプジョー・シトロエングループが合弁事業「Sevel」で兄弟車を共同開発した状況とは異なり、メルセデス・ベンツが単独で開発・生産した車両をVWに供給する、という形の協業でした。

第4章:3代目スプリンター(W907/910型、2018年〜現在)

〜初のFF追加とeスプリンターへの布石〜

現行世代となる3代目は、2018年2月6日、デュイスブルクの物流センターで発表され、同年6月から販売を開始しました。歴代で初めてFF仕様(型式910)をラインアップに加えたのが特徴で、この前輪駆動系は後述するビトー/Vクラスからの流用ではなく、スプリンター専用にメルセデス・ベンツが自社開発しています。北米生産はサウスカロライナ州ラドソン工場でのCKD(完全ノックダウン)生産に移行しました。

当初のエンジンは2.0L直4ターボガソリン(M274、2024年に廃止)、2.1L直4ターボディーゼル(OM651、2022年まで)、3.0L V6ターボディーゼル(OM642、2022年まで)で、2023年からは新開発の2.0L直4ディーゼル(OM654)を搭載しています。登場時のトランスミッションは6速MTと7速AT(7G-TRONIC PLUS)の組み合わせでしたが、2023年の改良で9速AT(9G-TRONIC)へと刷新されています。

2022年までの4WD仕様は、前モデルから継承された「4×4」が用意され、3.0L V6ディーゼル+ATの組み合わせのみに設定されました。2023年の改良時に4WDのメカニズムも刷新され、新エンジンのOM654+9G-TRONICと組み合わされる常時作動のフルタイムAWDへ一本化されました。副変速機は廃止されたものの、レシオカバレッジの広い9G-TRONICの恩恵で1速のギア比が改良前より約25%大きくなっています。また、前軸へのトルク配分は従来の35%から50%へ拡大しました。2023年の改良では、パワーステアリングも油圧式からラック式電動に変更されています。しかしながら、2024年春には欧州仕様のFF(910)モデルが生産終了となりました。

欧州の電動化への流れから、2019年に初代eスプリンター(FFシャシー、35/41kWhまたは47/55kWhのバッテリーを搭載し航続115〜168km)がデュッセルドルフで生産開始されました。2023年後半からは新開発の「Electric Versatility Platform(EVP)」を採用したリア駆動の第2世代eスプリンターへ移行しました。バッテリー容量は81kWhまたは113kWh、出力は134馬力または201馬力となり、2022年10月の実証走行では1回の充電で475kmを記録するなど、実用航続距離が大幅に向上しています。この大容量バッテリー・後輪駆動プラットフォームは、後述する大型BEVキャンパーの可能性を探るうえでも重要な布石です。

コラム:大型モーターホームを支える「サードパーティビルダー」という構図

デュカトの回で解説したとおり、欧州のキャンピングカー市場ではHymer、Dethleffs、Bürstnerといった有力ビルダーがデュカトをベースに架装技術を磨き上げるエコシステムが競争優位の源泉になっています。スプリンターの場合、ヒムザー、ヴァインスベルク、クナウス、コンコルドといった有力ビルダーが大型モーターホーム(欧州でいうところのType CやAクラス)のベースとして選択しています。日本市場への正規輸入はありませんが、欧州有力ビルダー製の車両は並行輸入の形で少数が流通しています。

第5章:Vクラスの系譜

メルセデス・ベンツ製のキャンパーベース車両としては、スプリンターに加えてVクラスも挙げられます。

初代(W638型、1996年〜2003年)

Vクラスの出発点は、商用バン「ビトー」の乗用モデルとして1996年に登場した初代です。デュカトと同じくFF横置きエンジンを採用し、直列4気筒を主力としながら、より高出力を求めるユーザー向けにV6エンジンも設定されました。もっとも、メルセデスの横置きFFプラットフォームには60度や90度のバンク角を持つV6が収まらなかったことからか、「V280」に搭載されたのはフォルクスワーゲンから供給された2.8L狭角V6(VR6型)でした。トランスミッションは5速MTが基本で、上級グレードには4速ATが用意されています。4WDの設定はなく、初代W638はFFのみで展開されました。

日本にも1998年に「V230」が導入され、翌1999年には上級グレード「V280」が追加、V280は2002年に販売を終了し、末期はV230のみの展開となっていました。

初代Vクラスには、ポップアップルーフを採用したウェストファリア製のキャンピングカー「マルコポーロ」が設定され、VWカラベル「カリフォルニア」の良きライバルとなりました。もともとウェストファリア社は、VWの「タイプ2(ワーゲンバス)」や「ヴァナゴン」「カラベル」のキャンピングカー(カリフォルニアやマルチバン)の架装を一手に引き受けていた、VWの「お抱えパートナー」のような存在でした。しかし、1990年代後半にメルセデス・ベンツ(ダイムラー・クライスラー)がウェストファリア社の株式を段階的に取得し、最終的に子会社化(2001年~2010年まで)しました。そのため、VWはキャンピングカー「カリフォルニア」の自社開発・生産に移行せざるを得なくなった、という欧州自動車業界の裏事情もあります。

2代目(ビアノ、W639型、2003年〜2014年)

2003年のフルモデルチェンジでは社名が「ビアノ(Viano)」に改められ、駆動方式はFRに転換しました。エンジンは、CクラスやEクラス等にも搭載されていた2.1L(2,148cc)の直列4気筒コモンレール式ターボディーゼル(OM646型)と、M112型(V型6気筒SOHC 3バルブ)がグレードや仕向け地毎に適正化された仕様で搭載されました。

日本仕様のパワーユニットは自社製の3.2L V6エンジン+5速AT(5G-Tronic)に統一され、「トレンド」「アンビエンテ」「アンビエンテ・ロング」の3グレードが導入されました。2006年11月には車名が再び「Vクラス」に戻され、その後エンジンも3.7L、さらに3.5L V6 DOHCへと順次刷新されています。

4WDについては2010年の改良で「4MATIC」が新たに設定され、4気筒ディーゼルグレードを中心に展開されました。電子制御多板クラッチで前後トルクを配分し、左右輪のスリップはESPと連動した制動制御で抑える方式で、これは次章のコラムで触れるとおり、スプリンターの本格的な4×4とは異なる、Vクラス系に共通する簡易なAWDの原型となりました。

2代目にも、キャンピングカー「マルコポーロ」は継続して設定されていましたが、日本市場への正規輸入はありませんでした。

3代目・現行(W447型、2014年〜)

現行のVクラスは2014年1月にフルモデルチェンジしました。この世代もFRおよび4MATICの駆動方式を継承しています。日本への導入は2015年10月に発表され、2016年1月から2.2Lブルーテック直4ディーゼル+7速AT(7G-TRONIC)の組み合わせで販売が開始されました。ボディは標準(全長4,905mm)、ロング(同5,150mm)、エクストラロング(同5,380mm)の3種類となり、多様な用途に対応します。その後、2019年10月にフロントフェイスを刷新して上級「エクスクルーシブ」シートを採用、2022年2月には新開発のOM654型エンジンと9速AT(9G-TRONIC)へ刷新、そして2024年10月には2度目の大規模改良でワイドスクリーン化されたディスプレイやエアマティック(エアサスペンション)を導入するなど、プレミアムミニバンとしての熟成を続けています。

コラム:ジアコーサ式FFとの対比

デュカトの回でご紹介したダンテ・ジアコーサ式の横置きFFレイアウトは、荷室の低床・フラットフロア化という点でキャンピングカー架装に有利です。初代Vクラスがまさにこのメリットを享受していたのに対し、2代目W639以降の世代がFRに転換したのは興味深いところです。プロペラシャフトを持つFR方式は床面が高くなりますが、重量物を積んだ際の駆動輪荷重確保という点ではFFより有利に働きます。マルコポーロのようにポップアップルーフ、サブバッテリー、キッチンモジュールといった架装で後輪荷重が増加するキャンピングカーでは、FRおよび4MATICの方が悪条件での走破性では有利です。

コラム:スプリンターとVクラスで異なる「4WD」の中身

同じメルセデス・ベンツのバンでありながら、スプリンターとVクラス/ビトーでは4WDの仕組みそのものが異なります。スプリンターの「4×4」(2022年以前)は、電子制御多板クラッチをデファレンシャルに一体化した「トルク・オン・デマンド」方式でしたが、不要な場面では前輪駆動を切り離すことができたことに加え、副変速機付きトランスファーケースによるローレンジも備えた本格的な機構でした。一方、Vクラス/ビトーの4MATICは、日産のアテーサE-TSのような多板クラッチを用いたスタンバイ4WDで、左右輪のスリップ抑制はESPと連動した制動制御で代替する簡易な方式でした。前者はローレンジ付きで悪路走破性を重視し、後者は雪道や未舗装路での安心感を高めることを重視するというように、車格と用途に応じて異なる思想の「4WD」が与えられてました。2023年以降のスプリンターは、前輪の駆動切り離しと副変速機が廃止された常時作動のフルタイム4WDに簡素化されており、両車の4WD思想が近づいています。

第6章:メーカー純正キャンパー「マルコポーロ」の系譜

〜サードパーティに委ねないメーカーの矜持〜

第4章のコラムで触れたとおり、スプリンターベースの大型モーターホームはヒムザーやコンコルドといったサードパーティのビルダーが手掛けるのに対し、Vクラス系にはメルセデス・ベンツ自身が企画・生産する純正キャンパー「マルコポーロ」が存在します。これはスプリンターとVクラスを分ける決定的な違いであり、「大型はサードパーティの多様性に委ね、コンパクト〜ミッドサイズ帯は自社ブランドで囲い込む」というメーカーの棲み分け戦略の表れでもあります。

誕生(1984年、T1ベース)

マルコポーロの歴史は意外に古く、1984年、第1章で触れたT1(ブレーマー・トランスポーター)をベースに、架装パートナーであるウェストファリアとの協業のもとで誕生しました。バハマベージュの外装をまとい、全高2.97mのボディに、ルーフベッドと兼用のベンチシート、回転対座シート、簡易キッチンなどを備え、初代から「本格キャンパー」としての作り込みがなされていました。

Vito・ビアノ・Vクラスへの継承

1996年、Vクラスの発売と同時にビトーベースの第2世代へ移行し、全高2m未満に収めてガレージ収納を可能にする折り畳み式ルーフや、レール式可動シートなどを採用しました。2003年のビアノ登場に合わせて電動開閉式ポップアップルーフや点弾性スプリング入りルーフベッドを備えた第3世代へと進化し、2014年には現行Vクラス(W447型)の登場とともに第4世代へ移行、ヨットを思わせるフロア素材やLEDアンビエントライトなど、より上質な内装へと磨きがかけられています。

2018年には装備を絞り込み車中泊利用に適した廉価版「マルコポーロ・ホライゾン」が追加されました。日本にも同年、メルセデス・ベンツ日本の手により「V220d マルコポーロ ホライゾン」として正規に導入されており、限定的ながら国内でも新車を正規購入できた時期がありました。2020年にはサイドオーニングやサブバッテリー、遮光カーテンなどを加えた改良版へと発展しましたが、このモデルは日本仕様は設定されず、以降正規輸入のアナウンスはありません。2024年には誕生40周年を記念した特別仕様「マルコポーロ・エディション クラシック」と「同AMGライン」が発表されています。

2026年、完全内製化への転換

2026年8月、デュッセルドルフ・キャラバンサロンで発表された新型マルコポーロは、大きな転機を迎えました。ベースとなるVクラス自体はスペイン・ビトリア工場で生産されますが、キャンパーへの艤装工程を、これまで40年以上にわたり協業し、前述のように2001年~2010年の間は子会社化していたウェストファリアから切り離し、メルセデス・ベンツ自身のルートヴィヒスフェルデ工場で完成させる「完全内製化」に踏み切りました。新型ではポップアップルーフを軽量化しつつ室内高を約10cm拡大したほか、星空を眺められるパノラマ開閉式スカイライトを新設。冷色〜暖色を調整できるアンビエントLED、MBUX画面やスマートフォンアプリからルーフの昇降・空調・冷蔵庫の温度管理までを一括制御できる「MBAC」統合システム、インフォテインメントがオフでも駆動する8スピーカー+サブウーファーのオーディオ、左サイドに配置したツーバーナーガスコンロ・シンク・40Lコンプレッサー冷蔵庫のキッチンなどを備えます。パワートレインは2.0L直4ディーゼル3種(161〜234馬力)のみで、2026年9月現在電動仕様は用意されていません。

コラム:なぜスプリンターには純正キャンパーがないのか

メルセデス・ベンツはVクラス系では自社ブランドの純正キャンパーを展開する一方、大型のスプリンター系では私たちが知る限り、純正キャンパーを設定していません。これは、大型モーターホームの架装が高度な専門性(FRPシェルの成形、大型シャシーの改造、断熱・防水設計など)を要することから、ヒムザーやコンコルドのような専業ビルダーに委ねるほうが合理的だ、という判断だと考えられます。そのため、コンパクト〜ミッドサイズ領域は自社で完結させ、大型車は市場のエコシステムに任せるという、ステランティス陣営とは異なる棲み分けが成立している、と筆者は見ています。

第7章:日本市場におけるスプリンター/Vクラス・マルコポーロ

〜一度は正規導入されたマルコポーロと、その後の空白〜

デュカトが2022年9月にステランティスジャパンの手で正規導入され、認定ビルダー各社によるバンコンが続々と登場しているのに対し、スプリンターは2006年の撤退以降、正規輸入が途絶えています。また、Vクラス・マルコポーロは、第6章で触れたとおり2018年にメルセデス・ベンツ日本による正規販売の実績があります。「V220d マルコポーロ ホライゾン」は、正規ディーラーを通じて購入・アフターサービスが受けられることから、キャンピングカーショーでも大きな注目を集めました。しかし、正規販売は限定的なもので、2020年の改良モデル以降は日本仕様の設定はなく、正規輸入は途絶えたままです。現在は、2018年に正規輸入された個体を中古車市場で探すか、並行輸入業者を通じた個別対応となります。Vクラスは継続して正規販売されているので、今後のマルコポーロ再導入に期待したいところです。

第8章:維持管理とメンテナンス

ベース車両を検討するうえで重要となるのが、購入後の維持管理とメンテナンス体制です。スプリンターやVクラスを長く安全に使用するためには、輸入車としての構造とキャブコン・バンコンの特性を理解した整備が求められます。また、ベース車の車両部分に関しては「メルセデス・ベンツ」としてのメンテナンス費用が必要になります。

欧州車特有の整備ポイント

スプリンターおよびVクラスは欧州基準の車両であり、エンジン制御やMBUXをはじめとする電子制御系、ADASのセンサー類などが複雑に組み合わされています。適切な診断ツールを用いた点検や、専用の部品供給ネットワークを持った整備工場での対応が必要です。CSSファクトリーでは、正規輸入車の鈑金塗装・点検・修理・整備に対応していますが、部品の供給状況によっては長期間のお預かりになってしまう可能性があります。また、メーカー指定の診断ツールは保有しておらず、車輛の整備に関しては汎用スキャンツールでの対応となります。MBUXやエアマティック、EQVのような高電圧システムなど、専用の診断ツールによる対応が必要な点検・整備・修理は、正規ディーラーへの委託作業となります。

大型ボディ・ポップアップルーフの修復と予防整備

スプリンターベースの大型モーターホーム、あるいはマルコポーロのポップアップルーフ機構を備えた車両は、一般的な整備工場のリフトや塗装ブースには収まらない場合があります。キャンパーシェルの修復には、大型車に対応した設備と、FRPを扱う専門的な技術が必要です。CSSファクトリーは、母体である有限会社ボディショップハタケヤマが半世紀以上培ってきた鈑金塗装技術を土台に、こうした大型・特殊形状のシェル修復にも対応しています。架装部とシャシーの繋ぎ目、そしてポップアップルーフの可動部は、走行時のねじれや振動による応力が集中しやすい箇所です。経年劣化によってコーキング材やシーリング材が硬化・破断すると、「雨漏り」を引き起こす原因となり、定期的な点検と、防水処理の予防整備が必要です。雨漏りは、症状が悪化してからの対応では水による被害が広範囲に拡大している場合が多く、早期の点検習慣が結果的に維持費を抑えることにつながります。

なお、CSSファクトリーでは、メルセデス・ベンツ含む正規輸入車の洗車・車検・鈑金修理を軸に、ディーラーとの連携が必要な整備・診断作業も含めて窓口を一本化してお引き受けしています。並行輸入車は原則対応外としておりますが、必要な部品を供給いただける並行輸入業者様からのご相談は受付けております。

第9章:将来展望

〜EQVベースのBEVキャンパーと、その先にあるVAN.EA〜

現状、BEVキャンパーは「足踏み」している段階だといえます。Vクラスの電気自動車版「EQV」をベースにしたキャンパー仕様は、すでに欧州の架装メーカーでは開発が進み、2022年1月にはスイスの架装メーカー、ソルティモが手掛けた「EQVキャンパー」が発表されました。90kWhのリチウムイオンバッテリーによりWLTPモードで最大363km(EQV300)の航続距離を実現し、ポップアップルーフ一体型ベッド、シンク・脱着式ガスコンロ・冷蔵庫を備えたキッチンモジュール、最大約400Wのソーラーパネル、回転対座シートなどを装備します。同時期には、より小型のEQT(電動Tクラス)をベースにした「コンセプトEQTマルコポーロ」も発表されており、コンパクトなBEVキャンパーの可能性も提案されています。もっとも、EQVの航続距離(グレードによって212〜363km)では、キャンプ場までの移動や現地での電力消費(冷蔵庫・照明・エアコンなど)を考えると、長距離ツーリング用途には力不足であることも事実です。現段階ではソルティモ・スイスの限定的な取り扱いに留まり、メルセデス・ベンツ自身による正規ラインアップ化には至っていません。

VAN.EAプラットフォームという次の一手

しかし、メルセデス・ベンツはバン部門全体を電動専用アーキテクチャへ刷新する計画を明らかにしています。新設計の「VAN.EA(Van Electric Architecture)」は、ゼロベースで開発されたモジュール式・スケーラブルなBEV専用プラットフォームであり、2026年から量産を開始、以降新規開発されるバンはすべてこのアーキテクチャに統合される計画です。

VAN.EAは大きく2系統に分かれ、乗用・プレミアム用途の中型セグメントを担う「VAN.EA-P」と、貨物スペースや積載効率を重視した商用の「VAN.EA-C」で構成されます。VAN.EA-Pの市販型を予告する「ビジョンV」コンセプトは2025年春に発表され、米国市場への投入を見据えた次世代Vクラス的なポジションのモデルになる見込みです。注目すべきは、メルセデス・ベンツがこのVAN.EA世代において「中型・大型の電動キャンパーバンの新ラインアップ」を計画していると公言したことです。これは現行のEQVキャンパーのような改造ベースの実証モデルから一歩進み、航続500km級のBEV専用プラットフォーム上に、マルコポーロに代表される純正キャンパーを正式ラインアップとして展開する構想があることを意味します。すでに大容量バッテリー(最大113kWh)を搭載している「eスプリンター」用「Electric Versatility Platform」の知見も、VAN.EA-C系の大型BEVキャンパーに活かされていく可能性が高そうです。

現状、BEVキャンパーが普及しない最大の要因は、航続距離不足・車両重量増(架装重量とバッテリー容量とのトレードオフ)・充電インフラの未整備・車両価格の高さという、EV全般が抱える課題がそのまま当てはまることです。しかし、今後は欧州の環境規制強化や都市部の低排出ガスゾーン拡大や、そしてメルセデス・ベンツ自身によるVAN.EAという専用プラットフォームの開発、「電動キャンパーラインアップの拡充」を明言していることから、欧州のBEVキャンパー市場は拡大していくものと思われます。まず、マルコポーロ・ホライゾン的な車中泊用途の車両からBEV化が進み、その後eスプリンター系の大容量バッテリー搭載車をベースとした大型モーターホームのBEV化へと拡大していくのではないかと考えられます。中長期的には、BEVベースの「eマルコポーロ」がメルセデス・ベンツ自身から販売されるようになっていくのではないか、というのがCSSファクトリーとしての見立てです。

まとめ

スプリンターは1977年のT1以来FR/4WDの大型商用車として、Vクラスは1996年のビトー以来FF・FR・4MATICを使い分けるプレミアムミニバンとして、それぞれ独自の系譜を歩んできました。Vクラスをベースにメーカー自身が手がける純正キャンパー「マルコポーロ」は、2026年の完全内製化という節目を迎え、進化を続けています。

スプリンターと共に欧州の代表的なキャンパーベース車であるフィアット・デュカトが正規輸入と国内ビルダーのネットワークによって身近な選択肢になったのとは対照的に、スプリンターは正規輸入が途絶え、Vクラス・マルコポーロも2026年9月現在は並行輸入でしか手に入りません。第8章で触れた通り、CSSファクトリーも部品供給網の有無に応じて対応方針を分けていますが、鈑金修理やFRPシェルの修復に対応できる設備とノウハウで、こうした車両を支えていきたいと考えています。

現在、BEVは足踏みしていますが、ハイブリッドやPHEVを含む自動車の電動化は確実に進んでいます。キャンピングカー業界も、ベース車両の電動化に伴い大きく変化していくことが予想されます。私たちは、スプリンター、Vクラス、そしてマルコポーロとVAN.EA世代の動向を、キャンピングカー業界の先行指標として引き続きウォッチしてまいります。

並行輸入業者様、これから輸入ベースのキャンピングカーをご検討中の方は、ぜひ一度CSSファクトリーにご相談ください。