こんにちは、CSSファクトリーです。
今回は、スズキ・エブリイとダイハツ・ハイゼットカーゴ/アトレーと並び、軽キャンパーのベース車として採用されているホンダ・N-VANの系譜について歴史を紐解いていきます。
N-VAN以前のホンダ製軽箱バンは、長年ミッドシップレイアウトを採用し、クルマ好きからは「農道のNSX」などと呼ばれていたアクティシリーズでした。しかし、2021年4月、多くのファンに惜しまれながら、アクティトラックが44年の歴史に幕を閉じ、同時にミッドシップのホンダ製軽商用車の歴史も終焉を迎えたのでした。
そして現在、アクティバンの後継モデルとして日本の働く現場、そしてレジャーシーンを支えているのが「N-VAN」です。
一見すると、MR(ミッドシップ・リアドライブ)からFF(フロントエンジン・フロントドライブ)への転換は、伝統の放棄のようにも思えるかもしれません。しかし、その根底にあるのは、1963年のホンダ初の四輪自動車「T360」から脈々と受け継がれる、「限られた規格の中で、働く人と荷物のために空間を最大化する」というホンダスピリットそのものです。また、ホンダの軽商用車の歴史には、横置きFFセダンのホンダ・ライフをベースとした「ライフ・ステップバン」と、そのトラック仕様「ライフ・ピックアップ」があったことを思い出してください。N-VANは、アクティの後継モデルであると同時に、このライフ・ステップバンの思想を半世紀近い時を経て受け継いだパッケージングである、とも言えるのです。
今回は、T360とその後継TNシリーズが築いた前史、アクティの技術的背景、その乗用派生モデルである「バモス」に採用された極めて合理的な4WDメカニズムを振り返りながら、N-VANへと至るホンダ製軽バンの進化を考察します。
*この記事は、ホンダ製品アーカイブTN/ACTY、プレスインフォメーション、自動車ガイドブック、カタログを参照して執筆しています。
第1章:すべての起点、ホンダ初の四輪車「T360」と、ミッドシップの原点「TNシリーズ」
ホンダの四輪車メーカーとしての最初の製品は、1963年8月1日に発売された軽トラック「T360」でした。当時、ホンダは最初の四輪車としてスポーツカーの開発を進めていましたが、専務であった藤沢武夫が「四輪車の需要はスポーツカーよりも商用車の方が大きい」「オートバイの代替需要として、冬場でも売れる商品が必要だ」と進言したことで、第一弾の製品は軽トラックに定められました。この「働く人のための実用車」からホンダの四輪史が始まったという事実は、のちのアクティ、そしてN-VANに至るまで一貫する哲学の原点と言えます。
T360の最大の特徴は、市販されなかった軽スポーツカーS360への搭載を想定していたオートバイエンジン譲りの4連キャブレターを採用した直4DOHCエンジンでした。360ccながら30PS/8,500rpmを発揮する高回転・高出力仕様で、日本初のDOHCエンジン搭載四輪車となっています。T360は、フロントシート下にエンジンを収めるフロントミッドシップで、S360のために開発されたFRのパワートレーンを活用したものです。サスペンションは、フロントがウィッシュボーン式、リアはリーフリジッドという構成でした。
1967年11月に登場した後継モデル「TN360」では、前年発売のFF軽乗用車「N360」のパワートレーンが流用されました。しかし、FFのままの流用ではなく、路面状況の悪かった時代の商用車に必須だった後輪駆動にするために、パワートレーン一式を後車軸の直前に配置して後輪を駆動するミッドシップレイアウトを採用しています。リアサスペンションは、リーフスプリングを用いたリジットアクスルでありながらデフが車体に固定される「ド・ディオン式」を採用していました。このリアサスペンション形式は、アクティ系全世代に踏襲されていくことになります。なお、乗用車用に開発された既存のFFユニットを、向きや位置を変えて後輪駆動及びそれベースの4WDの商用車に転用する、という仕様は、のちのホンダZやバモス・ターボ4WD(AT)まで繰り返されました。
これは、FRのパワートレーンが1963年~1970年のT360/T500、S500/600/800、L700/P700の世代で終わり、S2000が登場するまでFFのパワートレーンしか持たなかったホンダならではの後輪駆動を成立させる施策だったのではないでしょうか。
TN360はその後、TN-V、TN7と改良を重ねながら10年近くにわたり生産が続けられ、1977年、後継の「TNアクティ」へとバトンを渡しました。次章で見るように、アクティはこのTN360で確立した「ミッドシップレイアウト」を継承し、磨き上げていくことになります。
第2章:リアミッドシップを継承したアクティの誕生(1977年)
前章のTN360が確立したミッドシップレイアウトを、エンジンが550ccに拡大されボディも拡大された軽自動車の新規格に対応させたのが、1977年に登場した初代「TNアクティ」です。当時、スバルを除くライバルがフロントシート下にエンジンを搭載するキャブオーバーエンジン型を採用するなか、ホンダはミッドシップレイアウトを継続し、熟成させました。
このレイアウトは、キャンピングカーのベース車両や実用車という視点から見ても、多くのメリットがありました。エンジンがキャビンから離れた床下にあるため、シート下の熱や騒音が低減されること、空荷の状態でも駆動輪(後輪)にしっかりと荷重がかかること、などです。ミッドシップレイアウトであることから、アクティはいつしか車好きの間で「農道のNSX」という俗称で呼ばれるようになります。
なお、ホンダの軽自動車は1974年10月のライフ生産終了から1985年9月のトゥデイ登場まで、商用車のアクティのみでした。また、1979年にアクティバンが登場するまで、ホンダには軽ワンボックスバンはありませんでした。興味深いのは、1985年9月に登場した初代トゥデイは、アクティの前傾エンジンを流用して低いノーズを実現していたことです。初代TN360のエンジンはN360からの流用でしたが、軽乗用車事業に復帰する際は、アクティからトゥデイにエンジンが流用されたのは興味深い歴史の繰り返しではないかと思います。
なお、このエンジン前傾レイアウトは、後年のビートにも継承され、低重心を実現しています。後年のS660では、FFのN-BOX系のパワートレーンを流用していることから、エンジンが直立に近くなっています。
下図はビートとS660を比較したものです。

第3章:1980〜90年代、「ストリート」の誕生と4WDの進化
1981年、バンモデルの上級仕様として「アクティ・ストリート」が登場します。これはダイハツのアトレー同様、実用的な商用車からレジャー・乗用ユースへの広がりを見据えたモデルでした。また、1983年には、軽トラックの4WD化のニーズに応えるために、アクティシリーズにもパートタイム4WDが追加されました。ライバル各社より登場が遅れたのは、ミッドシップレイアウトのため4WD化に手間取ったからです。初代アクティの4WDが、後のホンダZやバモスと同様にエンジンを縦置きにして4WDを成立させていたのは興味深いところです。
1988年登場の2代目では、2WDも4WDもエンジン横置きに統一されました。当時、横置きFFベースの4WD車が増えてきたこともあり、部品の調達が容易になったことも横置きに統一された理由のひとつかもしれません。この世代から「リアルタイム4WD(ビスカス式フルタイム4WD)」が採用され、ドライバーの判断による4WDの切り替え操作が不要になりました。
また、農作業向けに超低速ギア(ウルトラロー/ウルトラリバース)とリアデフロックを備えて悪条件での走破性を高めた4WDモデル「アタック」が追加されたのもこの世代です。この基本設計は、セミキャブオーバー化された3代目(1999年)にも受け継がれていきました。
第4章:「バモス」と、モータースポーツに通ずる「縦置きミッドシップ4WD」
1999年、アクティバンをベースとした乗用モデルとして、伝説のネーミングを復活させた「バモス」が登場します。1BOXならではの広い室内空間とカスタム性の高さから、今なお中古車市場で人気の高い一台です。なお、バモスの社名のルーツとなった1970年発売の「バモスホンダ」は、TN360にフルオープンのボディを載せたレジャーカーで、ドアも無い個性的なクルマでした。

バモスで技術的に興味深いのは、2000年に追加された「ターボモデル」および「4WDのオートマチック(AT)仕様」です。
アクティやベースのバモス(5速MT/3速AT)は、エンジンを後席床下に「横置き」で搭載していました。ホンダでは、1998年に発売された2代目ホンダ・Z(PA1型)では、UM-4と名付けられたエンジンを後席床下に縦置きしたアンダーフロアミッドシップレイアウトを採用していました。Zのエンジンが縦置きになったのは、当時、軽自動車に搭載できるコンパクトな4速ATがなかったため、大きなシビック系のATを流用することになり、それを収めるために結果として「横置きFFのパワートレーンを流用した縦置きミッドシップ」という独特のレイアウトが生まれました。

このレイアウトは大胆な手法に見えますが「ミッドシップの4WD」を成立させるには極めて合理的でした。
一般的なフロント横置きFF用のパワートレーン(デフ一体型トランスミッション)をそのまま90度回転させて縦置きにすると、もともと左右の前輪を駆動するために横を向いていたデフ出力軸が、今度は「車の前後方向」を向くことになります。つまり、横置きFF用の既存のデフを、そのまま「センターデフ」として活用できるのです。そこから前後にプロペラシャフトを伸ばせば、新規のトランスファー(副変速機・出力取り出し機構)を設計することなく、FFのトランスミッションを流用して効率よく4WDシステムを構築することができます。
この「既存のコンポーネントを活かしてミッドシップ4WDを成立させる」という手法は、モータースポーツの歴史でも使われていました。1980年代、グループB時代のWRC(世界ラリー選手権)で活躍した「プジョー205 T16」は、シトロエンSM用の縦置きFFトランスミッションを横置きにしてミッドシップ4WDを成立させています。FFの左右ドライブシャフトが前後のデフを駆動するという意味では、ホンダZやバモスと共通した設計思想だといえるでしょう。
そして2000年、バモスにターボ4WDを追加する際、ホンダはZで市販化されていた「シビック用4速ATを縦置きに転用したパワートレーン一式」を、バモスに流用しました。同じ「バモス」でありながら、駆動方式やミッションの違いによって「横置きMR」と「縦置きMR」が使い分けられた背景は、このような事情によるものでした。
第5章:【余談】「横置きFF」をそのまま後ろか、「縦置き」か。トヨタ・Mコンセプトの考察
「ミッドシップ4WD」として近年話題になっているのが、トヨタがスーパー耐久などの現場で公開開発している「GRヤリス Mコンセプト」です。
GRヤリスのパッケージングを見直し、旋回性能を高めるために誕生したこのマシンは、横置きFFのパワートレーンをそのままリアミッドに搭載した4WDです。
しかし、横置きFFでは後方に伸びる後輪駆動用のプロペラシャフトは、Mコンセプトではエンジン下を通って前方のフロントデフに向かうことになります。2WD仕様が主力であればやむを得ないレイアウトで、かつての三菱アイの4WD仕様も同様でした。

しかし、Mコンセプトのように「4WDが前提のミッドシップ」の場合、プジョー205T16やホンダZ及びバモスに採用された「FF用のトランスミッションを縦に置いて4WD化する」レイアウトの方が駆動効率や重量配分、そしてメンテナンス性にも有利ではないかと思えます。
また、パワートレーンの幅が抑えられることから、エンジンの吸排気系やリアサスペンション設計自由度が高まるという期待もありそうです。ホンダの軽商用車の話題から逸脱してしまいましたが、かつてのZやバモスのレイアウトからは、そんな想像も湧き上がってしまいます。
第6章:FFプラットフォームを採用した「N-VAN」(2018年)
長年熟成され、独自の進化を遂げたアクティ/バモスのミッドシップ構造でしたが、年々厳しくなる環境や安全性への対応のために、新世代への移行が必要になります。しかし、スズキ・エブリイとダイハツ・ハイゼットカーゴ及びそれらのOEM車が大きなシェアを占め、ホンダのシェアは2017年には3.5%程度まで低下してしまった状況(三栄書房ニューモデル速報 第575弾ホンダN-VANのすべて より)で、商用車専用のミッドシッププラットフォームを新規開発するのは採算性という視点で困難でした。
そこでホンダが2018年に送り出したのが、N-BOX系のパワートレーンを流用した「N-VAN」です。1974年に一度市場から退いた「FFによる低床・フラット」という発想を、N-VANはダイブダウンシートという解決策によって、40年以上の時を経て実用化したことになります。
なお、2021年のアクティ生産終了にあたり、競合の先進装備・安全装備に対する見劣りとともに「次期型への開発予算を賄えない」ことを理由に挙げ、軽トラック市場から撤退しました。N-VANがアクティバンの後継車として登場した一方で、トラックには後継モデルはなく、長年続いたアクティというブランドの歴史が閉じたのでした。
大量生産されているN-BOXのFFプラットフォームを商用車に転用する選択は、開発コストと生産設備の両面で理にかなったものでした。N-VAN開発責任者の古舘茂氏も、開発の出発点として「N-BOXを商用車にすることに最初は戸惑いもあったが、これは何か新しいことができるチャンスだと感じた」と振り返っており、コスト都合の流用にとどまらず、市場調査を通じて「荷物をたくさん積めるだけでなく、静粛性や快適性も求められている」というニーズを取り込む方向へと発想を転換しています。
なお、アクティは長らく「ホンダオートボディー(旧・八千代工業 四日市製作所)」に生産委託され、この工場はミッドシップスポーツカー「S660」の生産拠点でもありました。2021年のアクティ生産終了に続き2022年3月には、S660も生産を終えています。S660の生産終了は安全・環境規制への対応が理由とされていますが、同じ工場でミッドシップ2車種の生産が相次いで終わったことは、少量生産のミッドシップ車には収益面で大きな課題があったのかもしれません。
N-VANのパッケージングにおいて、キャンピングカー架装の視点からも特徴的なのが「助手席まで完全にフラットになるダイブダウンシート」と「助手席側センターピラーレス」の組み合わせです。
これまでの軽バンは、後席を畳んでフラットにするのが限界でしたが、N-VANはリアシートだけでなく、助手席まで床面に完全にダイブダウンさせることができます。これにより、フロントエンジン車でありながら、助手席からテールゲートまで「長さ2,635mm」に及ぶ平らな空間が出現します。
さらに、助手席側のセンターピラーをドアに内蔵したことで、サイドドアを開ければ遮るもののない大開口部が出現します。この「低床なフラット空間」と「広い動線」は、メーカーが掲げる「積む・運ぶ生活のために」という思想を追求した結果であり、軽キャンピングカーや車中泊のベース車両として、レイアウトの自由度を広げることになりました。
第7章:伝統の系譜から見えてくるもの
アクティやバモスの歴史が「ミッドシップ構造を継承し、シビックのコンポーネントを活かしてエンジン縦置き4WDを成立させる」という、メカニズムのパッケージングの妙であったとすれば、N-VANの思想は「FF構造の制約の中で、シートアレンジと低床化によって、前後方向の空間をどれだけ拡大できるか」という課題への回答です。
アプローチは異なりますが、「小さな車体に、働く人と遊ぶ人のための可能性を詰め込む」というホンダの設計思想は、TN360からアクティ/バモス、N-VANへと形を変えながら受け継がれています。そしてこの低床フラットなパッケージングは、BEVのN-VAN e:にも継承され、さらなる進化の可能性を秘めています。
CSSファクトリーは、こうした歴代モデルが持つ独自のレイアウト、駆動方式、および床面の構造を完全に把握しています。エンジンや駆動方式によって「横置き/縦置き」が混在するバモスの修理から、N-VANの低床空間を活かした車中泊仕様車の修理まで、ベース車両の設計思想に寄り添った最適なアプローチで、皆様のキャンピングカーライフを支えていきます。
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