はじめに
2026年7月11日から12日の2日間にわたり、東京ビッグサイトにおいて国内最大級の業界イベント「東京キャンピングカーショー2026」が開催されました。かつてのアウトドアブームを起点とした需要の急増期を経て、現在のキャンピングカー市場は、ワーケーション、多拠点居住、さらには災害時の自立型広域避難シェルターとしての機能など、多様な社会的ニーズを背景に着実な成熟を見せています。
私たちCSSファクトリーでは、現在の市場トレンド、ビルダー各社の技術的アプローチ、および今後のモビリティ社会における技術的展望を多角的に分析すべく、現地での詳細な視察を実施しました。本レポートでは、ベース車両のシェア移行の背景、新たなパワートレイン(BEV/PHEV)の導入状況、および市場の多層化に関する構造的な変化について、技術的および市場環境的な視点から網羅的に報告します。
1. ベース車両の多様化:ハイエース新車供給状況からの課題
日本のキャンピングカー(特にバンコンバージョン)市場において、長年にわたり圧倒的なシェアを維持してきたのがトヨタ・ハイエースです。優れた積載性、レイアウトの自由度が高い荷室形状、そしてアフターパーツの豊富さがその理由ですが、今回の展示会場全体を俯瞰すると、ベース車両の明確な分散傾向が確認されました。この背景には「ハイエースの新車が入手できない」という業界の課題があります。
1.1 日産・キャラバンの供給状況と市場への余波
ハイエースの有力な代替候補として、近年ビルダーの採用例が急増しているのが日産・キャラバンです。
しかし、会場にて日産車の架装を専門的に手掛ける日産ピーズクラフトの担当者に現状をヒアリングしたところ、厳しい現状が浮き彫りになりました。現在、キャラバンは受注中止の措置が取られており、新車の納期が全く不透明な状況にあるとのことです。
ハイエースとキャラバンの供給面での制約は、キャンピングカー業界全体に大きな影を落としています。ビルダーは受注残を抱えたまま生産計画を立てられず、新規の顧客に対しても明確な納期を提示できません。結果として、ビルダー側もユーザー側も、ハイエースとキャラバンという選択肢を一時的に保留し、他のベース車両への移行や新たなプラットフォームの開拓を迫られているのが実情です。この「消極的な理由による多様化」は、現在の市場が抱える構造的なリスクのひとつと言えます。
1.2 フィアット・デュカトと国内環境
欧州基準のバンコンベースとして、日本市場への正規導入以降、着実にシェアを伸ばしているのがステランティス・グループのフィアット・デュカトです。今回のショーでも、国内の有力ビルダー各社がデュカトをベースにしたプレミアムモデルを多数出展していました。
デュカトの最大の利点は、その広大な室内空間と、キャンピングカー架装に適した低床の合理的なシャシー設計にあります。全幅が約2メートルを超えるため、車内で大人が横向きに就寝できるベッドレイアウトも構築できることに加え、欧州車特有の洗練されたエクステリアも高い評価を得ています。
しかし、展示車両の増加とは裏腹に、国内市場ではハイエースのシェアを大幅に代替するには至っていない、と分析しています。その要因は、日本の道路インフラおよび駐車環境とのミスマッチです。都市部のコインパーキングや一般的な商業施設の駐車枠、あるいは地方の狭隘な道路において、デュカトのサイズは明確な制約となってしまいます。結果として、デュカトは「取り回しを許容できる住環境を持つ層」や「長期間の旅行を主目的とする層」向けのニッチなプレミアムモデルとしての位置づけに留まり、国内キャンピングカー市場を牽引するベース車両とまではなり得ていません。
2. ミドルクラスミニバンの車中泊仕様:日常と非日常のシームレスな統合
ハイエースやキャラバンでは色々な意味で商用車的すぎるしそもそも入手できない、デュカトは大き過ぎて取り回しに難があると感じる層、そして何より「日常の買い物や送迎と、週末の車中泊を1台で完結させたい」というライトなニーズに応える形で、ミドルクラスミニバンをベースとした車両の提案が多く見られました。
2.1 主要なベース車両とその特徴
会場で目立っていたミドルクラスミニバンのベース車両は、それぞれ明確なキャラクターを持っています。
三菱・デリカD:5:
ミニバンでありながら高い最低地上高を持ち悪路走破性を重視していることに加え、ディーゼルエンジンの優れた経済性が根強い支持を集めています。
但し、見た目の印象とは異なり、横置きFFベースの乗用車系プラットフォームで、ランサーエボリューションⅩやエクリプスクロス、旧型アウトランダーと同系統です。
トヨタ・ノア/ヴォクシー:
ハイブリッドシステムによる優れた燃費性能、トヨタの小型FF車に共通するTNGA GA-Cプラットフォームの採用による走行性能と室内空間の両立が特徴です。最新の安全装備も採用しています。
日産・セレナ:
モーター駆動に特化したe-POWER、そして4WD仕様では前後2モーターのe-4ORCEを採用し高い走行性能を実現しています。また、プロパイロット等の先進運転支援システムが、長距離ドライブでの疲労軽減に寄与しています。
ホンダ・ステップワゴン:
スクエアなボディ形状がもたらすホンダ車では過去最大を謳う室内空間、3列目シートが床下に格納されるシートアレンジにより、ミドルクラスでありながら余裕のある架装空間を確保できます。ハイブリッドのe:HEV仕様は、2WDのみの設定となっています。
2.2 構造変更(8ナンバー)と乗用登録(5/3ナンバー)の二極化
これらのミニバンをベースとしたモデルは、架装のアプローチによって大きく2つの方向性に分かれています。
一つは、キャンピング車登録(8ナンバー)要件を満たした本格的な架装モデルです。シンク(水道設備)や調理設備、就寝スペースを確保し、キャンピング車に求められる法令を遵守して製作されています。
もう一つは、5ナンバーや3ナンバーの乗用車登録を維持したままの「車中泊仕様車」です。車体に大掛かりな加工を施さずに、脱着可能なベッドキットや専用設計のモジュール家具を搭載しています。車体に手を加えないことから、ミニバンを残価設定ローンで購入したり、KINTOなどのサブクスで利用するユーザーでも快適な車中泊を楽しむことができます。
2.3 自動車メーカー純正車中泊仕様の系譜と日産「MyRoom」
ミニバンベースの車中泊仕様は、1990年代末から2000年代初頭にかけて各自動車メーカーが純正で設定していたモデルに近いとも言えます。マツダ・ボンゴフレンディの「オートフリートップ」や、ホンダ・ステップワゴンの「フィールドデッキ」など、当時はメーカー自身が車中泊仕様車をカタログモデルとして販売していました。
現在、この潮流に近い位置に存在するのは、ミニバンではなく商用車ベースではありますが、日産がキャラバンとNV200バネットにメーカー純正として設定されている「MyRoom」仕様です。ビルダーによる架装ではなく、メーカー自身が「クルマを部屋にする」というコンセプトで木目調の内装や専用シートを設計しており、高い品質と保証体制が担保されています。日常用途と車中泊を高いレベルで両立させるこのアプローチは、今後はミニバンにも展開されていく可能性もあるかもしれません。
3. 車両の電動化(BEV)トレンド:架装部電源設備の根本的な変革
今回の東京キャンピングカーショー2026において、業界の将来構造を根本から変える可能性がある重要な技術的トピックが、ベース車両の完全電動化(BEV:電気自動車)です。
3.1 韓国・現代自動車グループによる商用BEVプラットフォームの導入
展示の中で多くの人々の関心を集めていたのが、韓国・現代自動車グループの商用BEVであるKia「PV5」およびHyundai「ST1」です。これらは単なる輸入販売ではなく、国内の大手キャンピングカービルダーが正規ディーラーとしての役割を担い、キャンピングカーのコンプリート車両として国内市場に投入する計画が発表されました。取扱い主体は車種ごとに異なり、岐阜県可児市に本社を置くトイファクトリーがKia PBVジャパンと正規ディーラー契約を締結してPV5の販売・展示を展開する一方、ST1は名古屋の輸入車販売会社ホワイトハウスが取扱いを担っています。
なお、両モデルとも「PBV」という略称を用いていますが、その定義が同じグループ内のメーカーですが異なる点に注意が必要です。KiaはPBVを「Platform Beyond Vehicle」と定義し、EV専用プラットフォームを基盤に多様なボディや仕様を組み合わせられる拡張性を指す概念として用いています。一方、HyundaiはST1のPBVを「Purpose-Built Vehicle」と説明しており、都市物流や業務用途に最適化された専用設計思想を指す言葉として使われています。いずれの場合も、シャシーとキャビンがモジュール化されており、用途に応じた専用の架装が極めて容易に行えるという、従来のエンジン車にはないプラットフォームとしての強みを持っている点は共通しています。
3.2 Kia PV5の高度な電力管理とV2L機能
トイファクトリーのPV5担当者へのヒアリングを通じて、BEVキャンピングカーの優れた機能と、従来の架装概念を覆す優位性が確認できました。
BEVをキャンピングカーとして使用する際に、ユーザーが最も懸念するのは「停車中の電力消費(エアコンや各種家電の使用)による走行用バッテリーの消耗(電欠リスク)」です。しかし、PV5にはこの課題に対する明確なシステム制御が実装されています。ユーザーは車両のインターフェースを通じて、「メインバッテリー残量が30%になるまで」といった任意の電力使用制限を設定できます。これにより「次の充電スポットまでの余力分は温存されている」という安心感を持ちながら、車内居住空間で電力を使用し続けることができます。
さらに、大容量のポータブル電源等から車両の充電ポートへ電力を逆供給する機能(V2L/V2H技術の応用)も備えています。これは、長期間の停泊時において、外部電源や追加の蓄電池から車両本体へ「給油」するような運用となり、万一の際のフェイルセーフとしても活用できる可能性があります。
3.3 「サブバッテリーシステム不要」がもたらすコスト構造の変化
ビルダー視点から見たPV5の優位性は、停車時も車両の空調が使用できること、大容量の駆動用メインバッテリーから直接100Vの電力を取り出し、架装部の家電を稼働できることです。
従来のガソリン・ディーゼル車をベースとしたキャンピングカーでは、車内で快適に過ごすために、高額なリチウムイオンバッテリー、走行充電器(DC-DCコンバーター)、外部充電器、大出力インバーター、およびそれらを統合管理するBMS(バッテリーマネジメントシステム)を構築する必要がありました。この電気系統の架装だけでも100万円から200万円近い出費と、多くの工数、そしてキャンピングカーの限られた空間の侵食が発生します。
PV5のようなBEVベースの場合、この「後付けの電気設備」が不要になる見込みです。ビルダーにとっては、電気系統の構築にかかるコストと開発リソースが削減されるとともに、架装空間をより効率よく活用することができます。結果として、PV5はベース車両自体は高価でも、キャンピングカーとして製作する車両の価格は、大容量のサブバッテリーシステムを装着したハイエースベースのバンコンと同等、あるいはそれ以上の価格競争力を持つことが見込まれているそうです。
3.4 CSSファクトリーの技術的視点:PHEV(プラグインハイブリッド)の有用性
Kia PV5やHyundai ST1に代表される完全電動化(BEV)の技術的進歩は高く評価できる一方で、CSSファクトリーとしては、現在の国内のインフラ環境(特に地方部や山間部における急速充電器の整備状況)を鑑みた場合、プラグインハイブリッド(PHEV)がキャンピングカーのベース車両として最適解に近いと考えています。
PHEVの強みは、「ガソリンの補給によって継続的な自立発電が可能である」という点に尽きます。インフラが未整備な大自然の中や、災害時において電力網がダウンした状況下でも、燃料さえ確保できれば数日間にわたって安定した大電力を供給し続けることができるのです。
また、BEVと同様に、自動車メーカーの厳しい品質・耐久基準を満たした発電機(エンジン)と大容量バッテリーが工場出荷時から組み込まれているため、アフターマーケットの部品を組み合わせて構築する後付けのサブバッテリーシステムと比較すると、システムの信頼性と安全性が優れている可能性があります。メディアのスクープ記事などで予想されている次期ハイエースを始め、国内自動車メーカーからの商用バンやミニバンベースのPHEVモデルの登場が、今後のキャンピングカー市場の成長に繋がっていくのではないかと分析しています。
4. ハイエンドモデルの動向:欧州ラグジュアリーと国産フラッグシップの二極化
実用的な価格帯のバンコンやミニバンベースのモデルが充実する一方で、2000万円から3000万円クラスに達するハイエンドモデルの市場も堅調な成長を見せており、キャンピングカー市場の多層化・二極化が示されていると感じました。
4.1 欧州製ハイエンドモーターホームの空間設計
アドリア(スロベニア)やハイマー(ドイツ)に代表される欧州の高級モーターホームは、もはや「車両」というよりも「移動可能な高級建築物」と呼ぶべきレベルに達しています。
フィアット・デュカトやメルセデス・ベンツ・スプリンターの専用シャシーをベースに架装されたこれらの車両は、洗練された間接照明、リアルウッドや高級ファブリックを使用した質感の高い内装材、そして緻密な空間レイアウトを特徴としています。フロントシートを回転させて構築する広大なダイネットや、独立したシャワールームとトイレ、そしてプルダウン式のベッドなど、長期間の滞在を前提とした設計思想は国産モデルとは一線を画しています。これらのモデルは、予算や保管環境に余裕のある富裕層やアクティブシニア層からの需要を的確に捉え、確固たる市場を形成しています。
4.2 国産フラッグシップキャブコンの徹底した国内最適化
欧州のハイエンドモデルに対して、国内の道路環境と気候風土に最適化された国産のハイエンドキャブコンも確固たる地位を築いています。
トヨタ・カムロード、いすゞ・Be-cam及びTravioなどの商用トラックシャシーをベースとしたこれらのモデルは、全幅を2メートル程度、全長を5メートル程度に抑え、日本の一般的な駐車場や道の駅で乗用車枠に駐車可能であることに配慮しています。
さらに、国産フラッグシップの最大の特徴は「空調設備」です。日本の高温多湿な夏の環境に対応するため、大容量のリチウムイオンバッテリーと家庭用ルームエアコンの組み合わせが標準になりつつあります。デザインや空間の豊かさを追求する欧州モデルに対し、日本の気候とインフラにおける実用性と快適性を追求する国産モデルという、明確な棲み分けと選択肢が成立している点は、市場の成熟を示す好例です。
5. 総括と今後の展望
東京キャンピングカーショー2026の視察を通じて、キャンピングカー市場が単なるレジャー用途から脱却し、顧客個々のライフスタイルや社会課題(ワーケーション、災害対策等)に対応するために、高度に細分化・多様化している状況を確認しました。
市場の主要なボリュームゾーンがカムロードベースのキャブコンやハイエース・キャラバンベースのバンコンであるという基本構造は維持されています。その上で、手軽さと日常の使い勝手を求める層には軽キャンパーやミドルクラスミニバンの車中泊仕様が、居住性とラグジュアリーを重視する層には欧州製や国産のハイエンドモデルがそれぞれ提供されています。
そして、電気系統の構築コストを根本から削減し、車両の運用方法自体を変革するBEV(Kia PV5等)の登場は、今後のキャンピングカーのアーキテクチャにパラダイムシフトをもたらす可能性を秘めています。また、実用性とインフラの現実解としてのPHEVへの期待も高まっています。
ユーザーの予算、駐車環境、使用目的に応じた選択肢の幅は過去最大となっており、各ビルダーはもはや「箱としての車両」を作るだけでなく、電気の運用や居住空間の質を含めた「新しいライフスタイルの設計思想」を明確に問われる時代へと移行していると評価できます。
6. 追記:専門メディアとの情報交換と今後の展開
本視察の際、会場内において、キャンピングカー業界の有力専門誌である八重洲出版が発行する「オートキャンパー」の品田編集長、五月女副編集長、ならびに前田氏とお会いする機会を得ました。
ご挨拶および名刺交換に加えて、限られた時間ではありましたが、現在の市場動向や、本レポートでも言及したPHEV等の次世代技術トレンドについて、有意義な情報交換を実施しました。常に業界の最前線を取材し、ユーザー目線での情報発信を続ける同誌の皆様との対話は、技術的アプローチを追求する我々にとっても非常に示唆に富むものでした。
「オートキャンパー」誌のみなさんと私たちCSSファクトリーのような技術屋集団との繋がりが、キャンピングカーオーナーの皆さんに新たな価値を生み出していくことになると嬉しいですね。