こんにちは、CSSファクトリーです。
今回は、2027年度にも後継車の登場がアナウンスされている日産NV200バネットの系譜を紐解いていきます。バネットは、元々運転席の下にエンジンと前軸を置き、車体の前端まで室内として使うフルキャブオーバー型でした。限られた全長のなかで荷室や室内を最大限に確保できるこのレイアウトは、日本の小型商用バンの基本形として長く使われており、日産でこのクラスを担ってきたのが、サニーキャブから続く「バネット」でした。
その歴史をたどると、キャブオーバー型の商用車から乗用ワゴンが枝分かれし、やがて別の車へ育っていく過程や、自社開発からOEMへの転換、そしてキャブオーバーから前輪駆動(FF)への移行が見えてきます。今回は、1968年のダットサン キャブスターから、バネット、現行のNV200バネット、そして2027年度に予定されている次期型までを、キャブオーバー車の系譜として順に追っていきます。
※この記事は、日産自動車ニュースルーム、自動車ガイドブック、カタログ情報などを元に執筆しています。
キャブオーバー型ダットサン トラック:1968年キャブスター
1968年10月7日、日産は新車種「ダットサン キャブスター」を発売しました。当時のニュースリリースは、この車を「信頼性の高いダットサン トラックの性能・機能をそのまま受け継いだ『キャブオーバー型ダットサン トラック』」と紹介しています。車種は標準トラックとその高床式・ショートボデーに加え、ライトバン、ルートバン、パネルバン、ダブルキャブ、コーチの計10車種で、トラックだけでなくワンボックスのバンや乗用のコーチまでを揃えていました。
エンジンは1,198cc・56馬力のD12型で、日産のリリースによると、ダットサン・キャブライト用のD11型エンジン(1,138cc・53馬力)を基本に、排気量と圧縮比を高めたものです。キャブライトは1958年に登場した小型商用車で、日産自身も、1968年10月に3度目のフルモデルチェンジを迎えたキャブライトが、キャブスター(A320)へと名前を変えたと説明しています。ただし、キャブライトは運転席の前にエンジンを置く、ボンネット型でした。キャブスターは、その流れを汲みながら「キャブオーバー型ダットサン トラック」として生まれ変わった車で、日産の小型キャブオーバートラック/バンの系譜は、実質的にこのキャブスターから始まったといえます。
小型クラスのキャブオーバー:1969年サニーキャブ
キャブスターの翌年、1969年8月には、より小さなクラスのキャブオーバー車「ダットサン・サニーキャブ」(C20型)が発売されました。これが、のちのバネットに直接つながるモデルです。キャブオーバー型の後輪駆動車で、トラックのほか、「ライトバン」「ルートバン」、そして乗用登録の「コーチ」が用意されていました。
「サニーキャブ」という車名が示すとおり、パワートレインは当時のサニーから流用し、エンジンには後に名機と呼ばれるA型が搭載されていました。当初は1,000ccのA10型、1975年からは1,200ccのA12型に換装されています。A型エンジンは、日産自社開発のキャブオーバー型バネットの最終モデル(1994年)まで搭載されていくことになります。
当時の日産は販売店の系列ごとに専売車種を持つ体制をとっており、サニーキャブはサニー店向けのモデルでした。1970年9月にはチェリー店向けの兄弟車「チェリーキャブ」が加わりました。販売系列ごとに別の名前が与えられた姉妹車を展開する手法は、次のバネットにも引き継がれていきます。
キャブオーバーのフルラインナップ:1973年キャラバン
1973年2月には、キャブオーバーバン「キャラバン」が登場します。サニーキャブ/チェリーキャブ、キャブスター、そしてキャラバンの登場により、日本国内市場向けの4ナンバーキャブオーバーバンに、日産は小・中・大のフルラインナップが完成したと担当者は考えています。
このうちキャブスターは、1976年の2代目でホーミーの姉妹車となり、1982年にはホーミーとともにアトラスへ統合されて、小型トラックの系譜へと進んでいきます。一方で、サニーキャブより上のクラスのキャブオーバーバンという位置付けで見ると、キャブスターは、のちのバネットラルゴの前身と考えても良さそうです。
なお、キャラバンの系譜はこちらを参照してください。
バネットの誕生:1978年
1978年11月、サニーキャブ/チェリーキャブの後継として、C120型「サニーバネット」「チェリーバネット」が登場しました。エンジンは1,200ccのA12型と1,400ccのA14型で、ボディはバン、トラックと乗用ワゴンのコーチの3種類です。その後、1980年には日産店系列向けの「ダットサンバネット」が加わりました。なお、1999年4月に日産の販売店が「レッドステージ」「ブルーステージ」に統合されるまで、プリンス系列向けのバネットは設定されませんでした。
1981年6月にはLD20型ディーゼルエンジン搭載車が設定されました。同時にコーチには、「ワンボックスGT」をキャッチコピーとする最上級グレード「2000SGX」が追加されています。エンジンはZ20型1,952cc(最高出力105PS/5,200rpm、最大トルク16.5kg・m/3,200rpm、グロス値)で、5速MTと3速ATが設定されました。全長3,930mm、全幅1,600mm、ホイールベース2,075mmというコンパクトな車体で、車両重量は1,155kg(5速MTの標準ルーフ車)だったので、当時のワンボックス車としては活発な走りを見せたと思われます。「全長4mを切る車体に2,000ccエンジンを搭載」というのは、現在の基準でも中々魅力的な構成だと思われます。
幅広の上級モデル:1982年バネットラルゴ
1982年9月、バネットの上級車種として「バネットラルゴ」が追加されました。車幅をバネットより90mm広げ、エンジンには2,000ccのZ20型ガソリンとLD20型ディーゼルに加え、LD20T型ディーゼルターボも用意されました。乗用のコーチだけでなく、5ドアの「バネットラルゴバン」も設定されています。
この時点ではまだ「バネットの幅広版」という位置付けでしたが、次の世代で、バネットとラルゴははっきりと作り分けられていくことになります。
2代目バネットの登場:1985年
1985年9月、バネットは2代目のC22型にモデルチェンジしました。登場時に搭載されたエンジンはCA20型ガソリン、A15型ガソリン、LD20型ディーゼルの3種類でした。1986年11月には車名が「バネット」に統一され、販売系列ごとの名称設定がここで終わりました。
バネットとバネットラルゴの作り分け
バネットラルゴは、1986年5月に2代目(GC22型)へ移行し、先代の「バネットの拡幅版」ではなく、延長されたホイールベースを持つモデルとして登場しました。バネットとバネットラルゴは足まわりとパワートレインも異なるものが採用されています。
リアサスペンション:ラルゴには、5リンク式コイルスプリングのリジッドアクスルが採用されました。同年8月に発売された初代テラノと同じ形式です。バネットはリーフスプリングのリジッドのままでした。
4WD:2代目には、駆動系にダットサントラック4WDなどの部品を流用したパートタイム式の4WDが設定されました。ラルゴは1986年11月にパートタイム4WDが追加され、1989年6月のマイナーチェンジではビスカスカップリングを用いた「フルオートフルタイム4WD」に切り替わりました。しかし、バネットはパートタイム式のままでした。
エンジン:ラルゴの上級グレード「グランドサルーン」「クルージングサルーン」には、国内の小型ワンボックスでは初となるガソリンターボエンジンCA18ET型(最高出力120PS)が搭載されました。バネットには設定がありません。

このように、バネットラルゴは上級乗用ワゴンとして快適性や動力性能の向上を狙った開発が進められていたようです。しかし、ラルゴにも初代から商用のバンが設定されていたため、単純に「商用のバネット、乗用のラルゴ」と分けられるわけではありません。バネットがリーフスプリングを使い続けた理由を日産が説明した資料は見当たりませんが、担当者はスペースの都合が大きかったのではないかと推測しています。バネットラルゴの4WD車では、スペアタイヤを床下に配置できず、リアフロア上に置いていました。コイルリジッドと4WDを組み合わせると床下に余裕がなくなることがうかがえ、リアオーバーハングの短いバネットで室内にスペアタイヤを置くと荷室の使い勝手に影響が出たはずです。もちろん、部品点数が少なく構造の単純なリーフスプリングのほうが、コスト面でも有利だったでしょう。
もう一つ考えられるのが、北米市場の存在です。北米で販売された「日産・バン」は、国内のバネットラルゴをベースとしたモデルです。高速道路での長距離移動が多い北米向けに、高速走行時の安定性と乗り心地の向上を狙ったことも、コイルリジッドの採用につながったのかもしれません。なお、国内では後期型のCA18ET型ターボエンジンを搭載したクルージングシリーズには、北米仕様と同様のフロントマスクが採用されていました。上級シリーズとして見た目で差別化するうえで、北米仕様と部品を共通化するのは合理的な選択だったのでしょう。
なお、リーフスプリングはこの後もバネットの系譜に形を変えて登場します。その話は後半のコラムで触れます。
乗用ワゴン系の独立:1991年のバネットセレナ登場
1991年6月、バネットの乗用ワゴン(コーチ)がモデルチェンジし「バネットセレナ」となりました。バネットセレナは、前輪を前に出したセミキャブオーバー型で、エンジンは前席下に搭載されていました。以降、1999年のモデルチェンジでセレナは横置きFFベースになると共に商用バンは廃止され、乗用ミニバンとして歩みを続けていきます。
続く1993年5月には、バネットラルゴが「ラルゴ」(W30型)にモデルチェンジ。5ナンバーのセレナとシャシーを共用する、3ナンバー専用ボディの拡大版となりました。こうして、キャブスターやサニーキャブの「コーチ」から続いてきた小型商用バンベースの乗用ワゴンの系譜は終焉を迎えたのでした。
マツダ・ボンゴのOEMへ:1994年
1993年、日産は座間工場の車両生産中止を発表するなど、規模の拡大から収益重視へと経営方針を転換していました。翌1994年、商用のバネットはモデルチェンジで3代目となり、「マツダ・ボンゴの系譜:初代から現行までライトキャブコンを支えた60年」で解説したようにマツダ・ボンゴのOEM車に切り替わります。
キャブオーバー型のバネットは、この後もボンゴのOEM車として続きますが、日産自身による小型キャブオーバー車の開発は、ここで途切れることになりました。
NV200バネットの登場:2009年 キャブオーバーからFFへ
2009年、日産自社開発の小型商用バンが復活しました。2009年4月2日、欧州市場で多く見られるFFの新型小型商用バン「NV200バネット」が発表され、翌5月から発売されました。発表時のコンセプトは「ビジネスの自信と誇りになる新世代LCV」です。エンジンは1.6リッターのHR16DE型で、バンに加えて7人乗りのワゴンも設定されました。日産は、日本を皮切りにグローバルに投入する世界戦略車として企画された車両であることを発表しています。
2011年10月からは三菱自動車に「デリカD:3」「デリカバン」としてOEM供給され、この供給は2019年まで続きました。また、リーフの駆動系を流用した電気自動車の「e-NV200」やタクシー仕様などの派生車種も生まれ、ニューヨーク市のタクシー車両にも選ばれています。
なお、NV200バネットの登場後も、ボンゴをベースとしたキャブオーバーのバネットはトラックは2016年、バンは2017年まで併売されました。
FFと低床を両立させる足まわり
FFの商用車では、後輪を駆動するためのプロペラシャフトやデファレンシャルが無いことから、荷室の床を低くできます。キャブオーバー型が前席の下にエンジンを置いて荷室長を稼いだのに対し、FFベースの商用車では床を低くして荷室高を稼ぐことで積載性を確保しています。2WD車は、この利点を生かすため、リアサスペンションに1枚のテーパーリーフ(テーパードモノリーフ)を用いたリジッドアクスルを採用しています。
2018年1月には、バンに4WD車が追加されました(1月30日発売)。路面状況や車速に応じて後輪へトルクを配分する「オートトルクコントロール4WDシステム」を採用し、リアサスペンションには4WD専用のスペース効率に優れたマルチリンク式が組み合わされています。2WDと4WDでリアサスペンションが全く異なることは、NV200バネットの特徴です。
コラム:バネットの系譜とリーフスプリング
リーフスプリング(板ばね)は、馬車の時代から使われ、自動車の黎明期から採用されてきた古い方式です。商用車では、複数枚の板ばねを重ねた「重ね板ばね」が一般的で、2代目までのバネットもこの形式でした。
NV200バネットの2WD車で特徴的なのは、板ばねを1枚にした「テーパードモノリーフ」を採用している点です。板の厚みを中央から端に向けて薄くしていくことで、1枚でも必要なばね特性を持たせています。
一方、リーフスプリングを独立懸架のばねとして使った例もあります。1986年のバネットラルゴ(GC22型)2WD仕様のフロントサスペンションや1991年の初代バネットセレナ(C23型)と1993年のラルゴ(W30型)のマルチリンク式リアサスペンションには、FRP(ガラス繊維強化プラスチック)製のリーフスプリングを横置きにし、ばねとして使っていました(セレナはFXグレード以上。下位グレードとバンは半楕円リーフのリジッド)。
同様の構造は、シボレー・コルベットや、2代目XC90以降のボルボの新世代プラットフォームでも採用されています。古い方式と思われがちなリーフスプリングですが、素材と使い方を変えながら、今も使われ続けています。
車中泊仕様「MYROOM」
CSSファクトリーとして注目しているのが、2024年10月1日に発表され、同年12月に発売された「NV200バネット MYROOM」です。バンをベースに、乗車時と駐車時で座り心地を切り替えられる「2 in 1シート」や平置きベッド、スライドテーブルを備え、「ポータブルバッテリー from LEAF」に対応したAC100V電源も用意されています。2025年12月には一部仕様向上も発表されました。日産は1973年にも、キャブオーバー型のキャラバンをベースにした「ニッサン・キャラバン・キャンピングカー」を発売しています。メーカー自身が商用バンをベースにした車中泊モデルを用意する動きは、半世紀前にもあったことになります。なお、「ニッサン・キャラバン・キャンピングカー」については、こちらの1973年5月10日付の日産のニュースリリースの最後に紹介されています。

次期型への期待
2025年7月、日産はNV200バネットの日産車体湘南工場での生産委託を2026年度末で終了すると発表しました。報道によると、日産は2027年度に後継モデルを導入する予定としていますが、具体的な仕様はまだ明らかにされていません。
CSSファクトリーとしては、e-POWERの搭載による電動化に期待しています。これはあくまでも我々の勝手な期待で、日産から発表された情報ではありません。ただ、外部給電機能が加われば、次期ハイエースのコラムでも触れたように、工事現場や災害時の電源として商用バンの活用範囲が広がりますし、キャンピングカーのベース車としても、走行用バッテリーを電装品に使えることは大きな魅力になります。
1968年のキャブスターに始まり、サニーキャブ、バネット、バネットラルゴと続いた日産の小型キャブオーバー車は、乗用系の独立、OEMの時代、そしてFFのNV200バネットへの移行を経て、その系譜は次の世代を迎えようとしています。次期型がどのような形で登場するのか、引き続き注目していきたいと思います。